歯科医院で仕事をしていると、虫歯や酸蝕歯、くさび状欠損など、蝕(むしば)まれる歯をたくさん見ます。
今回はその原因を歯垢以外の視点も含めて、まとめました。
読んでくれている方で「私にも当てはまる!!」というものが結構あると思います。

磨き残しだけでなく、患者さんの生活習慣や背景を考えていきます。
目次
歯を磨く習慣がない
患者さんの中には、「毎日歯を磨くことがない。」という人が稀にいます。
厚生労働省の歯科疾患実態調査では、平成28年度の少し古いデータですが、全体の2%は毎日歯を磨かないと書かれていました。
口腔内細菌が最も増える時間は、唾液の分泌量が減る就寝時。
私たちは一番歯磨きをする時間で重視するのは、[寝る前の歯磨き]です。
朝起きて、口がねばつくからと歯磨きをしても、少し遅い。

歯医者の前だからと、急いで歯ブラシで歯垢を取っても、私たちにはお見通しです。
歯頚部が白濁している箇所がなん箇所かあり、虫歯がちらほら見つかるようであれば、普段ブラッシングをしているタイミングを聞いてみましょう。
案外、「朝起きてすぐ」と答える人が多いです。
この時「晩御飯の後も歯を磨いている」と答えたら、ブラッシング指導と歯磨きの後の嗜好品などを飲んでいないか聞きます。
お酒や糖質が入っているものを飲んでいるようなら要注意です。
隣接面カリエスの治療跡が多い
口腔内を見て、隣接面のインレー(詰め物)やレジン充填(樹脂)、又はクラウン(かぶせ)が多くある人は、カリエスリスクが高く、あまりデンタルフロスや歯間ブラシを使用していないと考えます。
器具で歯と歯の間を触ってみると、モサモサとした量の歯垢が出てくるはずです。
歯磨きは毎食していても、実際に歯ブラシだけで除去できるプラークの量は60パーセント程度です。
虫歯の治療で歯医者はよく来院されるのに、「歯磨き指導はされたことがない」と答える方が案外多いので、患者さんの口腔内に合わせて、フロスや歯間ブラシ、タフトブラシなどの指導をします。


いちど聞いただけでは人間忘れたり、難しいこともあるので、うまく使用できているか何度も声をかけます。
この時、患者さんの性格や生活習慣、家庭環境など考えて、患者さん本人がストレスなくできる範囲の説明にしましょう。

私は継続しやすいよう、フロスや歯間ブラシの使い方は徹底的に指導しますが、使用頻度は可能な範囲でするよう説明しています。
健康や美容のためにお酢を飲用している
お酢は体に良いことは有名な話ですが、歯に関しては少し気をつけなければいけません。
酸蝕歯(さんしょくし)ですね。
お酢は酸性度が高いものです。
皆さんのイメージ通り、歯が表面から薄く溶けていってしまいます。
そこにすぐ歯ブラシを当てると、柔らかくなった歯を擦るので、歯ブラシの毛の跡がついています。
好んで飲用されているのは女性が多いので、好きな飲み物を聞いてみて、
お酢を飲むのであれば30分以上は歯磨きをやめるように伝えましょう。
ちなみに甘い炭酸飲料やワイン、酸っぱい果物も同様なので気をつけましょう。
食後や飲み物を飲んだあと必ず歯磨きをする
虫歯や歯周病治療の経験から、歯磨きを徹底される方がいます。
平均的な食事の回数3回、おやつを合わせて1回までなら歯磨きしても良いかと思うのですが、
以前、「コーヒーの後に歯を磨き、タバコを吸ったら歯を磨く。」とおっしゃる患者さんがいました。
エチケットとして意識されていたそうのですが、歯がどんどんすり減ってきていて、楔状(くさびじょう)欠損という、木を斧でコンコン削ったような歯のすり減り方をしていました。
すり減った歯の神経は外部に近づいて滲みやすくなります。
これは減ったところを埋める処置をしなければいけません。
滲みやすいと訴え、楔状欠損がみられる患者さんは、歯磨きの回数と歯ブラシの当てる圧を聞いてみてください。
歯の色が気になる
自分の歯の色が気になるからと、ものすごく強い力で歯ブラシで擦る人がいます。
歯磨きを何回もする人と同じように、歯が摩耗します。
歯の色が気になるのであれば、歯科医院で表面の着色汚れをとれば白くなります。
美白を求めるのであればホワイトニングもありますが、色々とデメリットもあるので注意が必要です。
逆流性食道炎や過食症、拒食症
こちらも胃酸で溶かされる酸蝕歯です。
全体的にエナメル質が溶けてざらざらとした印象です。
逆流性食道炎や、精神科の病気は歯科医院では治せないのですが、注意したい病気です。
せっかち
せっかちな人は、とにかく動きが早く、大まかに綺麗になるように歯を磨くので、歯頸部にプラークが残り気味です。
補綴物のマージンからのカリエスや歯周病も目立ちます。
豆やフランスパンなど硬い食品が好き
硬いたべものが好きな人は、虫歯じゃなくても歯が欠けたり折れたりする人が多いです。
豆やフランスパン、ぬれおかき、肉など、噛んでぐにっとなる食品は、神経の取った失活歯には少し危険です。
好きなものを食べないことはストレスです。
状況を説明し、あまりに欠けるようならば、食べる頻度や数を減らすようにだけ伝えましょう。
加齢
高齢者は少しずつ可動域が狭くなってきて、歯磨きがうまくできない人が増えてきます。
「歯ブラシを上手く動かせない。」 「唾液が出ない。」 「舌が痛い。」
何かしらの症状が出てくる人も多いです。
補綴物のマージンからカリエスや根面カリエスも増えてくるので、注意が必要です。
1歳半過ぎても、哺乳瓶でミルクやジュースを飲んでいる
幼児で、上顎のほとんどの歯の表面がカリエスになっていたら、ボトルカリエスを疑います。
育児や家事、仕事で大変なご家族に、心を落ち着かせるために持たせている哺乳瓶をやめさせるのも酷なのですが、子どものためです。
「乳歯なんて生え変わるから良いやん。」と思うかもしれませんが、その下に永久歯が必ずある可能性は100パーセントではないです。
元々永久歯がなく、乳歯のまま生活している人もいます。
現在虫歯が多発している口腔内に、新しい永久歯が生えてきても虫歯になる可能性が高いので、食生活指導と歯磨き指導は必ずしなければいけません。

子どもの虫歯予防にはフロスがおすすめです。ささっと通すだけでも効果ありですね。
歯科衛生士の生活指導のまとめ
口腔内の状態は、患者さんの普段の生活習慣を表していると思います。
私は不自然な歯を見つけると、今までの経験から思い当たりそうなことを聞いていきます。
患者さん自身、おかしなことをしていると思っていないので、一つずつ聞いていくことがポイントです。
- 歯磨きのタイミング(時間や回数)
- 嗜好品(好きな食べ物や飲み物)
- 歯磨き指導を受けたことがあるか
- フロスや歯間ブラシなど補助的清掃道具を使った事があるか
- 口の中で気になることを聞いておく
- 世間話
みなさんライフスタイルが違うので、一人一人に合った指導をすることが、患者さんの口腔内環境を整えて、生活の質を上げることにつながるのではないでしょうか。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
かすみ